それぞれの仮想通貨はハードフォークアップデートを経て仕様を変更しより良いものへと変化していっています。ハードフォークアップデートは一般的なソフトウェアのアップデートのように変更したい仕様が発生する都度行う場合もありますが、コインのリリース時にあらかじめ段階的なハードフォークが予定されているコインもあります。その中でも代表的なのがビットコインに続いて時価総額2位を誇るイーサリアムです。4段階のハードフォークが行われることが予め予定されていました。
その中でも3段階目となるアップデートはもともと2018年11月に予定されていましたが、この度その延期が決まり、2019年1月にリスケジュールされたとのことで話題になっています。今回は、イーサリアムのハードフォークのリスケジュールの内容や、2019年1月に行われるアップデートの内容などについてお伝えしていきます。
目次
イーサリアムの次期大型ハードフォーク、2019年1月の予定か
性能の向上やトランザクションコスト削減のための4段階に渡るハードフォークが予定されているイーサリアムですが、そのうち3段階目となる「メトロポリス」の前半であるByzantium(ビザンチウム)までが今までに完了していました。3段階目の後半であるConstantinople(コンスタンチノープル)も2018年11月に行われる予定となっていましたが、今回、開発者会議にて2019年1月まで延期されることが決定しました。
コンスタンチノープルが延期となった経緯
3段階目のアップデートであるメトロポリスの後半部分であるコンスタンチノープルの延期が決定したのは10月19日。Livestream上で行われた開発者会議にてイーサリアム開発者達の協議の末に正式決定しました。尚、Livestream会議の様子はYouTube上でも公開されており閲覧することができます。もともと2018年11月に予定されていたコンスタンチノープルですが、開発者による検証の際にバグが見つかり、動作が止まるなどの不具合が発生したため延期の決断が下されました。
イーサリアムはコンスタンチノープルの実行に向けてテストネット上でハードフォークを試験実施していました。バグが発見されたのはテストネット上。コンスタンチノープル実装の条件となるのが4,230,000個目のブロックでしたがその目前、4,229,999個目のブロックで動作が止まってしまい、取引記録が行われなくなるなどのトラブルに見舞われました。イーサリアム開発者の一人であるAfri Schoedon氏は会議に先立ってTwitter上でコンスタンチノープルのテストネット上で問題が見つかったこと、さらにコンスタンチノープルが年内には行われないであろうことについてコメントしていました。
開発者の一人である「Afri Schoedon(@5chdn)」氏は、Livestream上の会議に先立ちツイッターで「「コンスタンチノープル」は2018年内にはないでしょう。調査が必要です。」とのコメントを書いていた。
イーサリアム開発者Afri Schoedon氏は「2018年にコンスタンチノープルの実施はない」と述べています。 https://t.co/xzEy3QEt5J
— Ethereum Japan (@ETH_Japan) 2018年10月15日
no constantinople in 2018, we have to investigate
— Afri (@5chdn) 2018年10月13日
It’s a test net consensus issue – seems a bit early to call of Constantinople for 2018.
— Christopher (@OaktreeInv) 2018年10月13日
10月12日時点で開催された会議の中ではコンスタンチノープルのためのテストネットの運用は順調であると報告されていただけに、不具合の発生およびプロジェクトの遅延は投資家たちを驚かせました。
そもそもイーサリアムのハードフォークとは
ビットコインに次いで第2位の時価総額を誇る仮想通貨イーサリアム。一番の特徴と言えるのがスマートコントラクトです。スマートコントラクトとはブロックチェーン状に決済のみならず契約内容を記録し、さらに契約を自動で管理・実行できる機能です。従ってイーサリアムは決済機能のみならず様々なビジネス分野への応用が期待されている仮想通貨なのです。2015年にリリースされたイーサリアムですが、ハードフォークアップデートを4回行って徐々に機能を拡張していくことがリリース時に既に決まっていました。イーサリアムのハードフォークのロードマップは以下の通りです。
第1段階:Frontier/フロンティア(2015年7月に既に実施済)
バグ修正、スマートコントラクト試験
第2段階:Homestead/ホームステッド(2016年2月に既に実施済)
マイニングの難易度調整およびトランザクションの処理速度を改善
第3段階:Metropolis/メトロポリス・・・Byzantium(ビザンチウム)とConstantinople(コンスタンチノープル)の2部構成
前半:Byzantium/ビザンチウム(2017年10月に既に実施済)
Proof of WorkからProof of Stakeへの変更準備
後半:Constantinople/コンスタンチノープル(2019年1月に実施予定)
データ保存のコストを変更しスマートコントラクト開発者に有利にする変更、オフチェーンでの取引記録によりスケーリング問題を解決する等の変更が行われる見込み。ASICマイナーによる寡占防止策なども盛り込まれる可能性あり。
第4段階:Serenity/セレニティ(実施時期は未定)
Proof of WorkからProof of Stakeへの変更完了
上記の通りすでに第三段階の前半であるビザンチウムまでが完了している状況。コンスタンチノープルは2019年1月に実施予定となっていますが、セレニティについてはまだ明確な時期は定まっていません。
コンスタンチノープルの遅延による影響
コンスタンチノープルの実施が2018年11月から2019年1月に延期となった影響でイーサリアム関連の他のプロジェクトにも遅延が発生する可能性があります。
一方、今回の遅延のおかげで本来コンスタンチノープル後に実装が予定されていたProgPow(ASICマイナーによるマイニング寡占を減らす施策)の開発今回のアップデートに間に合う可能性が出てきました。イーサリアム財団も取材に対してコンスタンチノープルにProgPowの開発を間に合わせるよう努力する旨のコメントを出しています。
コンスタンチノープルの詳しい内容
コンスタンチノープルで実装される内容をもう少し詳しく見ていきましょう。実装が予定されているEIP(Ethereum Improvement Proposals/イーサリアム改善提案)は以下の通りです。
EIP210:ブロックのハッシュ方法を再編成
EIP145:イーサリアム仮想マシン(EVM)の計算速度の向上
EIP1014:ethereumブロックチェーン状態チャンネルを追加
EIP1052:スマートコントラクトのやりとりを圧縮する
EIP1234 ディフィカルティボムの追加とマイニング報酬を3ETH→2ETHへ削減
うち、上から4つについては単なる機能の改善と考えて差し支えありません。開発者にとってより開発がしやすくなるような改善であり、今後イーサリアム関連ソフトウェアの開発もさらに加速していくかもしれません。一方、一番下のEIP1234については一般投資家にも関わる部分であり、イーサリアム開発者の間でもかなり議論された部分です。
EIP1234が意味するのは、イーサリアムのマイニングの難易度が上がり、マイニング報酬が下がるということです。一見デメリットであるように見える実装ですが、これによってインフレが抑制され、イーサリアムのエコシステムが堅牢になると言われています。当初開発者側はマイニング報酬を1ETHに削減することを検討していましたが、報酬の減額を避けたいマイナー達がこれに反発。最終的にはお互い歩み寄る形で2ETHとすることで合意しています。
過去に分裂があったビットコイン イーサリアムも分裂の可能性があるのか
かつてビットコインもマイニング報酬に変更を加えたことがありますが、その時はマイナーと開発者の利害が一致せず結局コインは分裂。新しくビットコインキャッシュが誕生しました。この分裂の影響を受けてビットコインは一時価格を大幅に下げてしまいました。実際はビットコインキャッシュのAirDropを行うことで価格は逆に上昇する結果になりましたが、コインが分裂騒動を起こすと価格は安定せず市場に影響を与えてしまうことになりかねません。
今回のイーサリアムでもマイナーと開発者の利害は相反していましたが、話し合いの結果お互いにコンセンサスが取れた状態でアップデートが行われるので、分裂騒動やコミュニティの分裂による価格変動が起きる可能性は僅少であると考えられます。
そもそも「ハードフォーク」とは
ここで基本的な内容ですがハードフォークについて改めて確認しておきましょう。
ハードフォークとは、仮想通貨のルールを変更する際に旧ルールを無視して新ルールを新たに適用することで、旧ルールの互換性を無くすようなアップデートのことです。つまりハードフォークを行うと、旧仕様のブロックチェーンと新仕様のブロックチェーンができることになります。
ハードフォークと対立する概念として「ソフトフォーク」があります。ソフトフォークを行うとブロックチェーンは分裂することなく、以前の仕様も使えるままになります。仮想通貨のアップデートはハードフォークとソフトフォークの両方が使い分けられており、軽微な修正の際にはソフトフォークが用いられます。
ハードフォークを行うと旧仕様と新仕様の2つのチェーンが生成されるのはお伝えした通りですが、通貨のコミュニティがアップデートの内容に合意している場合、旧通貨は使用されなくなります。この場合、旧通貨にはディフィカルティボムが設けられます。ディフィカルティボムはマイニングの難易度を引き上げる形で設置されて、マイナーがマイニングを続けるインセンティブを削ぎます。
ハードフォークにより通貨が分裂することも
一方、コミュニティ内で合意が得られない場合ハードフォークによりコインは分裂し新旧両方のコインが使い続けられることも。例えば2016年にイーサリアムのプラットフォームを利用したThe Daoというサービスが盗難被害に遭った際、イーサリアムコミュニティはコインのハードフォークを行い盗難前の状態に戻すことを選択しました。しかし一部このハードフォークに合意しないグループがこれに反発し、ハードフォークによって産み出された旧ブロックチェーンを「イーサリアムクラシック(Ethereum Classic)」とし今でも使い続けています。
まとめ:イーサリアムの大型ハードフォークに引き続き注目が集まる
元々の予定から日程が変更となったイーサリアムのハードフォーク。通貨の時価総額の大きさとも相まって市場からも大きな注目を集めています。コンスタンチノープルの実施は2019年1月との発表があったもののその具体的な日時については未だに発表されておらず、今後も引き続きイーサリアム開発者からの発表に注目が集まります。最後まで読んで頂きありがとうございました。