目次
導入
今月に入り、シリコンバレーの株式・仮想通貨取引プラットフォームのロビンフッド、シンガポールを拠点とする仮想通貨取引所のフオビなど、少なくとも二社の仮想通貨関連企業が新規株式公開(IPO)・株式上場へ向けて前進しています。
過去16か月間での市場の暴落、そしてICO市場の衰退を受けて、既に広く普及している伝統的な投資募集方法による資金調達への期待が、仮想通貨関連企業の間でも、高まっているようです。
IPOとは?
IPOについて
仮想通貨関連の知識がある方にとっては、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)をご存知でしょう。
そして、企業が公開市場でより幅広い投資家から投資を募る従来型の投資手法である新規株式公開(IPO)の概念は、ICOが誕生する以前から歴史があります。
両者の大きな違いとして挙げられるのが、ICOではトークンの配布が行われる一方で、IPOは投資家に企業の株式保有権が与えられます。
企業が株式投資家に販売することをIPO(株式市場公開)と呼び、それらを上場した証券取引所で売買することができるようになります。
厳しい規制
株式の販売、上場までの一連のプロセスにはICO市場と比べて遥かに厳しい規制が敷かれています。
IPOは米証券取引委員会(SEC)のような規制当局による監督を必要とし、一社以上の投資銀行による引き受けが欠かせません。そうしたいわゆる「引き受け会社」がこのプロセスを管理し、SECと交渉を行い、顧客の証券取引所への上場を支援します。
IPOの例
企業が、例えばニューヨークのナスダックの証券取引所に上場すると、株式を公開したことになります。
すなわち、企業の株式が公開市場で投資家間で自由に取引されるようになります。
ここで重要なのは、ICOとは全く異なり、企業はその時点で監視機関に従い、投資家に社内義務の情報(財務情報など)を絶えず公開し続ける義務が生じます。
IPOを実施すると、より多くの投資家から資金を集めたり、株主資本を多様化したり、企業の全体的な存在感や威信を向上させたりなど、数多くのメリットを得られる可能性が生じますが、その一方で、十分な資金を調達できないリスク、法的費用や仲介手数料、センシティブな財務情報の公開といったマイナス面もします。
ICOの歴史 : 豪州での初の仮想通貨IPO、英国、香港へと波及
オーストラリア
オーストラリアが拠点であるビットコインマイニング会社のビットコイングループは、仮想通貨企業として世界で初めて証券取引所に上場しています。
15年に最初の発起書をオーストラリア証券取引所(ASX)に提出し、オーストラリア証券投資委員会の干渉による一連の延期を経た後、IPOによるわずか590万豪ドルの調達を行いました。
しかしながら、ASXはビットコイングループの資本金について懸念を表明し、同社は株式市場から撤退することを決めています。
その後、ASXにおいて少なくとも2つの仮想通貨関連企業が成功を収めています。
ブロックチェーンによる企業向け顧客確認管理プラットフォームを手掛けるKyckrは520万ドルを調達後、16年に証券取引所に上場しています。Kyckrの株式は最初20セントで販売されたが、現在は12セントで取引されています。
金融機関による支払い情報のやり取りを支援するブロックチェーンベースのソフトウェアを提供するるIdentitiiは、1100万ドル規模のIPOを行った後、18年8月にASXに上場しています。
英国
また、15年12月ブロックチェーンプロジェクトへの顧問コンサルティングサービスを提供するコインシリウムはロンドンのISDX Growth Marketに上場し、1000万株の普通株を一株約13セントで発行しています。
同社は総収益100万ポンド(130万ドル)の調達を行い、現在の株価は約9セントの値が付いています。
さらに、4種類の仮想通貨をマイニングするサービスを提供する会社であるアルゴブロックチェーンPLCは18年8月、仮想通貨企業として初めてロンドン証券取引所(LSE)に上場し、約3200万ドルの調達を行いました。
同社の発行済み株式資本の53.2パーセントに当たる、計1億5625万株の普通株を一株約21セントが販売され、現在アルゴの株式は約23セントで取引されています。
香港
膨大なマイニング能力を誇るビットメインは、香港のような米ドル建て株式の市場を持つ国におけるIPOの実施を200億ドルを目標にして計画していると報じられています。
ならびに、中国国内で2番目の規模を誇るBTCマイニングハードウェア製造業者のカナン・クリエイティブと、競合大手のエバン・コミュニケーションの2社は、仮想通貨関連株をまだ扱っていない香港証券取引所(HKEx)で10億ドルのIPOを実施する計画を発表しています。
逆さIPOの危険性
香港証券取引所(HKEx)は8月29日、フォビが、香港のエレクトロニクスメーカーのパントロニクス・ホールディングスの過半数の株式(66.21%)を取得したことを発表しました。
フォビの買収は、ブロックチェーン関連のプロジェクトを推進するというよりは「逆さIPO」だと予想されるでしょう。
逆さIPOとは
逆さIPOとは、非上場の企業が既に上場している企業の株式を買い取って、合併し非上場企業が飲み込む形で、経営を存続し、IPOの手続きなどを省いて上場する方法を指します。
上場にかかる費用や時間を省くことができる一方で、通常IPOに伴う「規制当局による財務諸表や業務の精査」を逃れるために利用されているとの声も上がっています。それに加え、IPOでは新規の株式発行を伴うため、既存の株式を保有する投資家の株の「希薄化」を招き、これが一年はかかるといわれる規制当局による審査に相まって影響が濃くなることを避けることができます。
逆さIPOの失敗例
仮想通貨エバンジェリストのマイク・ノヴォグラッツ氏が設立したギャラクシーデジタル社は8月1日、カナダの証券取引所であるTSXベンチャー取引所に上場。
米国でのIPOに必要な2年分の監査済み財務統計を持たないノヴォグラッツは、代わりにカナダの仮想通貨スタートアップであるコインキャピタルを買収し、既にTSXに上場していたカナダのペーパーカンパニーであるブラドマー製薬との合併を行っていました。
カナダの規制当局は、この点に関して上場の承認を行なう際に、同企業を綿密に調査し、取引開始を4月から8月に延期させています。
そういった不安基調の影響を受けて、同社の株価は、20パーセントの急落に反映されています。
まとめ
規制整備が整っていないICOではなく、歴史もあり規制が十分に整っている資金調達方法であるIPOへの注目度が、特に仮想通貨関連企業から高まっているようです。
しかしながら、IPOとは規制が非常に厳しく、規制当局による監視や投資銀行による引き受け、投資家への財務情報の公開など、その正当性を証明するためのプロセスや投資家保護の観点からセンシティブな情報を開示する必要があります。
こういったネックをもってしても、豪州、英国、香港では一部の仮想通貨関連企業がIPOを実際に実施しており、今後も増える基調です。
複雑なIPOプロセスが必要な手間を避けるため、逆さIPOというM&Aを利用した上場企業の取り込みなどを行う企業も出現してきており、そういった企業は規制当局の目にかかるところになります。